地震を予知する:

(1) いつ・どこに・どれくらいの大きさで発生するのかを電磁データが示す!

早川地震電磁気研究所 代表 早川正士

 

空中を飛び交う電波の微妙な変化をキャッチして地震の発生を予知する技術が電通大にある。この技術を開発したのは電通大名誉教授の早川正士先生である。現在,電通大発ベンチャー企業の代表として,電通大のインキュベーション施設で活躍中である。このインタビューでは,予知技術の仕組み,技術が社会にもたらすもの,事業化と更なる技術開発について早川先生に話を聞く。

【電通大内のインキュベーション施設内のオフィスにて。写真と文/IM(URA) 安部博文】

地震予知の技術

地震の予知について方法は2つあります。 1つは,力学的方法です。地震計を用いるこの方法は,これまで50年の長きにわたって取り組まれてきました。しかし,結果的にこの方法で予知するのは難しいということが分かった。 もう1つは電磁気学的方法です。こちらは着手して20年という比較的新しい取り組みです。しかし,今のところ,この方法が地震の前兆を掴む上で有効であることが分かってきました。

電磁気学的方法による地震予知 事始め

電磁気学的方法による地震予知の最初期の話をご紹介しましょう。 最初はギリシアとロシアの科学者による報告です。1980年代のことで,報告の内容は,地震が起きる前にどうやら電波が発生するようだ,というものでした。ロシアの科学者はゴクベルグさんといって,1982年にJGR誌に論文を投稿しました。この論文に対し,査読者はリジェクトしました。しかし,編集委員が面白いと考え掲載したのです。私はこの論文のデータを見て,これはちょっと怪しいなと感じました。でも着眼点は確かに面白い。

編集委員の力量で論文掲載

ギリシアの科学者はバロストスさんです。理学部出身で固体物理が専門です。ギリシアで大規模な地震が置き,死傷者が多数出たのがきっかけで,電磁気学的方法で地震予知を開始しました。VAN法という手法でこの世界では有名です。バロストスさんは同じ1982年に地球物理学の学会誌に投稿しました。この時も査読者はリジェクト。しかし,編集委員だった上田誠也さんが精読し,ここには何か新しい知見があると直感し,英文を修正した上で掲載したのです。 しかし,これらの報告は,当時の学会全体から見ると端っこのテーマだったため,特に注目を集めることはありませんでした。心にとめたのはまだ少数の学者に過ぎませんでした。

地震予知研究のスタートは1991年

1991年に私は名古屋大学空電研究所から電気通信大に移籍しました。 着任した時,当時の学長から,早川さんはこれまで理学的な研究で実績を上げておられるので,電通大では何か工学的なテーマを手がけてみてはいかがかという話がありました。私は電通大に移るとき,環境電磁工学(EMC:Electromagnetic Compatibility)を手がけようと思っていたので,しばらく考えた後,EMCとこれを応用した地震予知をやってみましょうとお応えしたのです。すると学長は,たいへん結構な内容ですと歓迎してくれました。

日本・ロシアの共同研究

ちょうどロシアの研究仲間であるオレグ・モルチャノフがそれまでいた研究所を離れることになったので,日本で一緒にやろうと声をかけました。こうしで電通大で,EMCと地震予知が日本・ロシアの組み合わせでスタートすることになったのです。 モルチャノフはロシアの人工衛星から得たデータを元に論文を書きました。私はそのデータを見て,地震と電波には何か関係があるようだ(Something exists)という手応えを感じました。

1995年神戸大震災

1995年神戸淡路で大地震が発生しました。この地震と電波に何かの関係性はないかを調べることにしました。 そこで通信総合研究所が持つデータを分析することにしました。通信総合研究所は,船舶航行用ナビゲーション用の超長波VLFという電波を受信しているところです。オレグさんと当時の大学院生と私の3人で,大地震発生の日からさかのぼってVLF受信状態の変化を調べました。生データはいくら見ても変化は分かりませんから,数学的処理が必要です。ここに学問的な知恵と工夫が必要です。新たなフレームワークを作り,データをグラフ化しました。すると驚くべき状態が起きていることが分かったのです。地震発生の1週間前にVLFの受信状態が変化している,ということです。

電波の受信状態が変化した理由

なぜVLFの受信状態が変わったのか。その理由は,地震発生地点の上空の電離層が通常より数キロ下がったからです。VLFは地上と80km上空にある電離層の間を反射しながら地球表面を進みます。通常は受信状態は一定です。しかし,地震が発生する前の地下の変化により,何らかの理由で上空の電離層の高度が変わった。そのため電波の反射状態に影響が出たのです。

地震予知の仕組み

地震予知の仕組みはシンプルです。 地震が起きる1週間前になると,地震が起きる地点上空の電離層が変化する。その結果,VLFの受信状態が変わる。 これを地震予知では,VLFの受信状態が変わったら,1週間後に地震が起きる,と考える。これがVLFを使った地震予知です。VLFの変化という前兆現象と地震発生の因果関係を確立するには事例の蓄積が必要です。そのためには研究を継続する資金が必要です。

事業化した理由

当初は国の研究費が出ていました。しかし,力学的アプローチによる地震予知は困難という判断が電磁気学的アプローチにも適用され,国の研究費が出なくなった。研究費が入らないと,次世代の研究者が参加できません。電磁気による地震予知という研究フィールドは今,日本が世界をリードしている分野です。火を消したくない,という思いもあります。国から出ないのなら,自ら調達するしかない。そこで地震予知情報の提供を事業化し,自前で研究費を調達して研究を継続することにしました。この目的のために,地震予知技術を開発する株式会社早川地震電磁気研究所と地震予測情報を配信する地震解析ラボとを設立しました。

-続く-